故人名義の不動産が相続財産となる場合、相続される方が自己名義に変更する登記を
行わなければなりません。その期限等は別段定められていないので、10年後、あるいは
20年後に相続登記を行ったとしても差支えありません。しかし、兄弟間で相続紛争が起こり
故人名義のままで相続登記を怠った土地を、兄が所有の意思を持って長年占有し続けた
ところ、兄の時効取得(その土地が自分の物であると所有の意思を持って、一定期間公然
かつ平穏に占有し続けた場合、その土地の権利を取得出来るという制度)が認められた
判例もあります。故人名義のまま登記を怠るというのは良くありませんので、相続登記は
速やかに行うのが良いでしょう。
登記は「共有名義」を認めております。共有名義とは各所有者の持分を定める事で、その
不動産の何分のいくつだけ権利が有るといった公示方法となります。言い換えれば、百万円
の土地の持分4分の1を持つ所有者は、25万円分の権利を持っているというわけです。
公示(登記簿記載)方法
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持分 60分の40 春名 一郎
持分 60分の15 春名 二郎
持分 60分の5 春名 三郎
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よくある間違いが、持分の概念です。例えば、一郎さんと二郎さんが土地を相続する事となり
東側半分を一郎さん、西側半分を二郎さんが相続する事で合意したとします。この場合、
お互い半分づつなので2分の1づつの共有で登記すれば良いように思いますが、これは大きな
間違いです。2分の1づつの共有で登記してしまった場合、一郎さんは東側だけでなく、西側
半分の土地についても2分の1の権利を有する事となり、逆に二郎さんは東側半分の土地に
ついて2分の1の権利を有する事となります。つまり、土地のどの部分(真ん中でも端っこでも)
についてもお互いが2分の1づつの権利を有する事となります。一郎さんが相続した東側半分
を売却しようとしても、共有名義のままでは売却出来ません。これが持分の概念です。
では、土地の東側半分を一郎さん名義に登記するにはどうすれば良いのでしょうか。
登記は原則として現在生存されている方からの申請しか受け付けられません。かと言って
上記の一郎さんと二郎さんのように、どの部分を誰が相続するのか決まっているのに、
故人からの申請が出来ないからという理由で一郎さんが代表で相続した後、分筆して二郎
さんに土地を提供するのでは、不要な税金を支払うはめになります(登記の際の登録免許税
も含め)。それでは不便なので、一部の登記については故人に代わって相続人から故人名義
のままでの申請が認められております。分筆登記もそのうちの一つです。まず、故人名義の
ままで土地を東側と西側に分筆し、その後、各自が相続する部分を自己名義に登記すれば
良いわけです。もちろん筆界確認や道路境界明示等も故人名義のままで行います。
前記の共有の場合、自己単独の意思で土地を処分出来ませんので、何を行うにも共有者と
意見の一致が必要となります。共有を不便に感じた時に分筆登記を行い、各自の単独所有に
する方法もありますが(共有物分割)、最初から単独所有で相続する方法に比べ、余計な費用
がかかりますし、土地のどの部分を誰が取るかで争いになる事も考えられます。そう考えると、
最初から土地を分筆して相続する方がメリットが大きいですよね。どちらを選択するかは、
もちろん個々の自由です。
このように、故人名義のままで分筆登記を行う際、我々土地家屋調査士が相続のお手伝い
を行う事となります。故人名義のままで分筆登記を行った事による不利益は一切ありません。
ただ注意して頂きたいのは、分筆登記は「処分行為」とみなされますので、登記名義人全員
による申請が必要です。つまり、故人名義のまま分筆登記申請を行う場合は、相続人全員で
申請しなければなりません。一人でも反対する方がおられれば、登記は受理されませんので
御注意ください。
なお、大抵の土地家屋調査士事務所では、分筆相続方法が相続人間で定まっていない段階
からの御相談をお受け致しております(ただし測量業務を行っている調査士に限ります)
相続人全員が納得出来るプランを御提案出来る事と思いますので、お困りの方はお近くの
土地家屋調査士事務所の門を叩いてみて下さい。もちろん当事務所でも喜んでお伺いさせて
頂きます。
相続の流れ(分筆登記を行う場合)
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相続開始 ⇒ 相続人全員で協議(遺産分割協議) ⇒ 遺産分割協議書作成
⇒境界確定測量作業 ⇒ 分筆登記申請 ⇒ 相続登記の申請 ⇒ 完了
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