経済の崩壊と言われた2008年後期。2009年4月現在、株価も9千円台にまで回復し、少し
ではあるものの景気回復の兆しが見えてきているのかもしれません。しかしながら我々庶民
の生活において実感する事は、まだまだありませんよね。
現在、大半の調査士事務所は価格破壊に頭を悩ませているのが現状です。食料品を中心とした
価格破壊は留まるところを見出せず、企業は生き残るために消耗戦を続けざるをえません。
このデフレの流れは、消費者がより安い物を求める傾向がある以上、仕方のないものです。我々
の業界も全く同様で、我々の場合、消費者の求め以上に価格破壊の一因としてあげられるのが、
小泉規制緩和による競争原理主義でしょう。競争を起す事により、競争に負けまいとする者は
必然的に価格を下げます。消費者にとっては嬉しい限りなのですが、価格を下げて提供する側に
してみれば、下げた分をどこかで補わなければやっていけません。まず一番に目にとまるのが
人件費です。正社員一人分の給料で、派遣社員を2人、パートなら3人くらい雇えますので、社員
を減らし、派遣・パートを増やさざるえをえなくなります。結果、被雇用者の給与水準は低くなって
しまい、消費者は更にお金を使わない生活、いわゆる「買い控え」が顕著になってしまい、更に
安い物を求めるようになってしまします。この「負の連鎖」が限界に達しようとしている現在、一生
懸命コスト削減を行ってきた企業努力だけではもはや生き残れなくなってきています。結果、
「産地偽装」等によるコスト削減が出てきているのではないでしょうか。
話を調査士に戻しますと、調査士の報酬についても「安さ」を求めるお客さんが大半です。
ネットが普及した現在、日本全国の調査士報酬を簡単に調べる事が出来ます。その一番安い
価格を提示して、それより更に安くするよう求めて来る方もいらっしゃいます。昔の話で調査士
事務所がよく儲かった時代の話を聞きますが、その時代は高度経済成長期で他業種も好調
だったはずです。今の調査士業界は、価格破壊により細々と経営している方が大半なのが
実情です。決してボロ儲け出来る商売ではありません。予備校では「安定した職業」とか「年収
1000万」とか過大な宣伝で人集めを行っていますが、試験に合格して登録したものの、仕事も
全くなく、すぐに廃業する人が多くいるのも現状です。「石の上にも3年、3年頑張ればなんとか
なるものだ」と本にも書いてありますが、3年たってもどうにもならない現状があります。個人の
努力が足りないと言われるかもしれませんが、努力だけでは不可能な事が、今の日本経済では
多々存在します。派遣社員として素晴らしい実力を発揮していた方であっても、解雇されれば
実力を発揮する場がなくなります。ネットカフェ難民の方だって、ホームレスの方だって、中には
一生懸命頑張っていた人も多くいるはずです。どの業界であっても、頑張っても報われないかも
しれない現代社会が築きあげられています。その社会情勢は国が悪いのでも国会議員のせい
でもありません。解雇する企業が悪いのでもなければ、職を失った方の努力が足りない訳でも
ありません。誰が悪いわけでもなく、国民一人一人のみんなが築き上げた社会なのですから。
だからと言って、無気力のまま止まっていては何も始まりません。今現在、職業を調査士として
活躍されている方の多くは、「儲かる」職業だからではなく、「好きな」職業だからという方が多い
ように思います(もちろん沢山儲かってる方も中にはおられますが・・・)。専門職に就く方の多く
は、当り前ですがその仕事が好きだからやっています。調査士業務に魅力を感じている方なら
しっかりとした信念を持って頑張って下さい。儲かる保障の無い職業ですが、受験生が減少
している現在において、「私は頑張る」と言って頂ける有志の方が増えて欲しいものです。
ただ、現状は現状として理解しておいて下さい。
以下、2004年2月に記載した文章です
昭和40年代から50年代にかけて、日本列島は住宅ラッシュに沸いていたそうで、その頃の
土地家屋調査士はと言うと、てんてこ舞い状態だったらしく、仕事が次から次に舞い込んで来て
処理が追い着かない事務所も多かったと聞きます。
時代も変わり、今は景気も低迷期。第二次ベビーブームの世代が30代を迎えた昨今、不動産
の需要も年々減少して行く傾向にあります。
上の表は総務省統計局が平成15年10月現在でまとめた人口の年齢分布ですが、見ての通り
これから結婚し、世帯を持って家を構えるであろう人口は、年々減少して行きます。時代の流れ
からか、最近では生涯未婚者も増えてきておりますので、ますます不動産の需要は減少する
ものと推測されます。つまり、これからは土地家屋調査士にとって「冬の時代」が到来するかも
しれないのです。もちろん、この話は人口の年齢分布のみを参考にしての考えなので、間違って
いる部分が有るかもしれませんが、少なくとも昔のような「建築ラッシュ」が起こる事は無いように
思われます。
私は兵庫県の「神戸」で主に業務を行っておりますが、ご存知の通り神戸は先の震災の被災地で
震災後に「復興景気」なるものが起こりました。倒壊した家屋の再建による住宅ラッシュです。
当時はみんな復興景気に沸いておりましたが、ラッシュが起こると必ずその反動が出るもので、
復興景気は向う10年〜20年で出て来るであろう仕事を先取りしただけに過ぎませんでした。
よって、復興の進んだ現在の神戸の冷え込みは散々たるものです。
その神戸で同業者の声を聞くと、やはり従業員の給与の支払いが厳しくなり、解雇せざるを得ない
状況となっています。解雇まで行かないにしても、給料カット・ボーナスカットはザラです。
神戸は例外としても、景気の低迷による業務の減少は避けられないものです。そのような中、
法曹人口の増加計画の余波により、土地家屋調査士試験の合格者も増加の傾向を辿ってます。
少ない仕事に多くの資格者。試験に合格したものの、行う仕事が無ければ元も子もありません。
最近の流れとして、総合事務所が多く見受けられます。あらゆる士業(税理士・司法書士・建築士
・行政書士等々)が合同で事務所を構え、その事務所に行けばどんな問題でも対応して貰える
事を売りに業務を獲得して行こうという流れです。客側にしてみれば便利ですし、どんな問題が
発生しても対応してもらえるので良いでしょう。今後はこのような事務所が多くなるように思いま
す。つまり、私共のような個人の単業事務所にとっては、益々厳しい時代が到来しそうです。
あと、忘れてはならないのが「規制緩和」です。土地家屋調査士の登記業務を測量士にも開放
しようという動きが活発になりつつあります。登記の知識という点で現在では難しいですが、もし
開放されたとすると、個人事務所に測量絡みの大きな仕事が来る事はまず無いでしょう。いくら
業務に精通していて自信があったとしても、やはり企業の宣伝力には勝てません。登記申請の
オンライン化も気になります。誰もが自宅からインターネットで登記出来るようになれば、我々の
代理申請業務は無くなるかもしれません。
私は受験生の方に受験を止めた方が良いと言ってる訳ではありません。これらの事実を理解
した上で試験に望んで欲しいと考えております。私自身、そのような事を全く考えずにこの世界に
入りましたので、現状を考える余地のある皆さんには十分に考えてから進んで欲しいのです。
土地家屋調査士という職業は、やはり「遣り甲斐」はあります。専門的な知識を持てば、それを
十分に発揮出来る職業です。ただし、発揮するにも仕事が有ってこそのものです。
このような時代の中、それでも「土地家屋調査士」という職業に魅力を感じてくださる方は、
頑張って合格を目指して下さい。数字上は合格率6%ですが、実際には勉強しないで受験してる
方や、記念受験の方もおられるので、もっともっと高いハズです。しっかりと頑張ってください。
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